2024-25シーズンのNBA、日本でもっとも話題になっているのは、メンフィス・グリズリーズの河村勇輝選手の活躍ですね。
173㎝ 72㎏の小さな身体ながら、2mを超える大男たちの中で日々奮闘しています。
注目すべきは、河村選手の現地での人気の高さ。
試合終盤にグリズリーズが大きくリードしている場面では、必ずといっていいほど「We want Yuki!(ユーキを出せ)」の大合唱が響きわたっています。
その人気は地元メンフィスだけでなく、出場すればアウェイの地でも、スタンディングオベーションで迎えられるほどです。
NBAを36年間観つづけてきたわたくしリトルでも、ここまで愛されるベンチプレイヤーは記憶にありません。
人気の面では、ホワイト・マンバと呼ばれたブライアン・スカラブリニを超えてしまいましたね(笑)。
では実力の面での評価はどうでしょうか?
日本のニュースでは連日「河村選手が大活躍」という記事が流れてきますが、実際にはガベージタイム(試合の結果が決まったあとの時間)しか出場できていないのが現実です。
今回は河村勇輝選手のNBAでの活躍を振り返り、なぜここまで河村勇輝選手が愛されているのか、実力は認められているのかを、語っていきたいと思います。
NBAで活躍する日本人選手に関しては、こちらの記事もごらんください。
河村勇輝 2024-25スタッツ
まずは今シーズンの河村勇輝選手のメンフィス・グリズリーズでのスタッツをみてみましょう。
ちなみにスタッツは12月21日時点のものです。
河村勇輝2024-25スタッツ
14試合出場 平均出場時間2.9分
1.0得点 0.1リバウンド 0.6アシスト 0.1スティール 0.3ターンオーバー
FG26.7% 3P18.2% FT66.7%
1試合平均3.1分と出場分数が少ないため、数字が小さくわかりにくいですね。
シュート成功率が26.7%、3ポイントシュートにいたっては18.2%とかなり低くなっています。
フリースローの66.7%も、ガードの選手としては厳しい数字です。
これまで使用していた国際球(7号球)よりも、NBAのボールはやや小さいこと、そして3ポイントラインがNBAの方が約50cm遠いことなど、河村選手にとっては対応していかなければならない課題がたくさんありますね。
スタッツをわかりやすくするため、河村選手が36分間出場したと仮定した場合のスタッツをみてみましょう。
河村勇輝 2024-25 Par 36Minutes
12.3得点 1.8リバウンド 7.0アシスト 0.9スティール 3.5ターンオーバー
36分換算のスタッツをみると、河村選手のリアルな活躍がみえてきます。
出場している時間帯がガベージタイムのため、単純に他の選手と比較はできませんが、シュート効率はともかく数字はまずまずではないでしょうか?
ただしターンオーバーがやや多いのは要改善ですね。
グリズリーズの中では、ビンス・ウイリアムズJr.(5.6 ※36分換算)、ジャ・モラント(4.6 ※同)に続いて、3番目にターンオーバーが多いのが河村選手です。
ちなみに、同じガベージタイムに出場する選手として、レブロンの息子ブロニー・ジェームズの36分換算のスタッツは・・・
ブロニー・ジェームズ 2024-25 Par 36Minutes
8.0得点 2.0リバウンド 4.0アシスト 2.0スティール 0ターンオーバー
ちなみにブロニーはこれまで7試合に出場、平均出場時間は2.6分。
河村選手と同じく、試合終盤のガベージタイムに出場し、少ない時間でアピールしています。
2way契約の河村選手とは違い、ブロニーは4年790万ドル(約118億5000万円 1㌦=150円)の本契約を結んでいる選手ですから、このスタッツでは批判されるのも仕方ないですね。
反対に河村選手は何も期待されない、誰も知らない状況の中から、自身の活躍でグリズリーズファンの大歓声を受ける人気選手となっています。
グリズリーズの試合の第4クオーター、点差が開き勝敗が明らかとなったときには、アリーナに「We want Yuki!」のチャントが巻き起こるのは、メンフィス・グリズリーズの本拠地フェデックス・フォーラムの名物になりつつあります。
驚くべきは、アウェイチームのホームコートでも同様のチャントが巻き起こり、スタンディングオベーションで迎えられること。
河村選手がアメリカのファンたちのお気に入りの選手となった理由は何でしょうか?
河村勇輝 2way契約を勝ちとるまで
所属する横浜ビー・コルセアーズが「河村勇輝選手がメンフィス・グリズリーズとエグジビット10契約に合意した」と発表したのは今年の7月7日。
その後パリオリンピックで大活躍をみせた河村選手は、9月21日、満を持して渡米。
9月30日に行われたグリズリーズのメディアデーでは、背番号17番をつけることが発表され、224㎝のルーキー、ザック・イディーとの51㎝差の2ショット写真が発表されました。
1987年に発表された、231㎝のマヌート・ボルと160㎝のマグジー・ボーグスの71㎝差2ショットをオマージュした写真には、本当に驚かされました。
「えっ?河村君すごいじゃん!」
今年のドラフト1巡目全体9位で指名されたザック・イディーと並ぶコンビショットは、「エグジビット10契約」の選手とは思えない扱いでしたから。
チームの期待に応えるように、キャンプで全力プレーをみせる河村選手に、チームメイトたちも高い評価をあたえます。
記者の取材ではジャ・モラント、デズモンド・ベイン、マーカス・スマートら主力選手たちから、河村選手の姿勢を賞賛する声が聞かれました。
10月6日に行われた公開練習の際は、新人恒例のダンスコンテストで優勝。
エースのモラントを呼び込み、一緒に踊る姿をみて「完全にチームに溶け込んでるやん!」とうれしくなりましたね。
河村選手は10月7日に行われたプレシーズンマッチ初戦に9分16秒出場。
5得点 3アシストを記録し、世界最高峰のNBAで、大きな一歩を踏み出しました。
3戦目のシカゴ・ブルズ戦ではゲームハイの8アシストを記録。
意表をつくノールックパスと、しつこい平面ディフェンスで存在感を高めていきます。
4戦目のペイサーズ戦では、プレシーズン最長の25分21秒出場し10得点 7アシスト 1スティールを記録し、ファンの心をがっちりつかみました。
そしてついに10月19日、グリズリーズは河村勇輝選手と2way契約をむすんだことを発表したのです。
河村選手のすごいところは、日本の高校を卒業し、日本の大学を経て(中退)、Bリーグでプレーした後にNBAに挑戦しているところだと思います。
これまでの日本人NBAプレイヤー3人(田臥雄太 渡邉雄太 八村塁)は、全員アメリカの大学でプレーした後、NBAに挑戦していました。
日本の高校、大学、プロリーグでプレーを続けたのちにNBAに挑戦した河村選手は、現在日本の部活で汗を流している子供たちに、大きな希望を与えているでしょう。
今回河村選手は渡米の際、通訳を連れていくことはなく、英語でコミュニケーションをとっています。
もともと両親と同じ教師を目指していた河村選手は、福岡第一高校の井手口監督から「勉強一本に絞っていれば、東大に行ったかもしれないぐらいの学力の持ち主」と言われるほど、頭がよい選手でした。
おそらく高校生の頃から将来アメリカでプレーすることを目指し、英語の勉強を続けていたのでしょう。
自身で学びながら積極的に英語でコミュニケーションをとる姿勢も、チームメイトからの信頼を勝ちとった一因ですね。
河村選手 開幕からの活躍
ついにむかえたユタ・ジャズとの開幕戦。
メンフィス・グリズリーズはケガ人が多く、チームの序列でいえば最も低かった河村選手までもがベンチ入りします。
開幕戦グリズリーズは126-124でなんとか勝利。
最後まで接戦がつづく中、河村選手の出番はありませんでした。
ただベンチを笑顔で盛り上げる河村選手を観ているだけで、なんだかグッとくるものがありましたね。
「本当にNBAの世界にたどり着いたんだな」と感慨深い思いにひたってしまいました。
現地時間10月25日、敵地で行われた2戦目、ヒューストン・ロケッツに終盤大きくリードを奪われると、第4クオーター残り3分34秒、河村選手がついにNBAの舞台に立ちます。
日本でプレーする時と変わらず、深く一礼をしてコートイン。
日本人4人目のNBAプレイヤーが誕生した瞬間でした。
残り1分14秒には速攻からゴール下に飛びこんだジェイレン・ウェルズに、鮮やかなアシストパスを通し、NBA初アシストを記録。
会場をおおいに沸かせます。
ただプレシーズンマッチとは違い、なかなかボールを持たせてもらえず、シュートを打つ機会はありませんでした。
スタッツに残ったのは1アシストのみ。
試合後に河村選手は「コートに立つことを目標に渡米を決断したので、ひとつ夢が叶った瞬間だった。こういった機会を与えてくれた皆さんに本当に感謝しかない」と語っています。
謙虚な河村選手らしいコメントですね。
河村選手にとって2試合目の出場となった、地元メンフィスでのデビュー戦は、ロケッツ戦の翌日でした。
オーランド・マジック相手に大きくリードして迎えた第4クオーター終盤、会場が異様な雰囲気に包まれます。
会場中から「We want Yuki!」のチャントが響きわたったのです。
その異様な光景には、あっけにとられてしまいました。
NBAを36年間観つづけてきたわたくしリトルですが、控えプレイヤーにここまでの大歓声が送られるのをみたことはありませんでしたから。
ヘッドコーチのテイラー・ジェンキンスから声がかかり、河村選手がベンチで立ち上がった瞬間、アリーナが大歓声で包まれるのをみて、なんだか涙がこぼれそうになりましたね。
試合は2本の3ポイントを放つも、決めることはできず。
相手に守備の穴としてねらわれるなど、悔しい結果でしたが、地元ファンの後押しを強く感じた試合でした。
その後もガベージタイムでの出場がつづきますが、なかなか得点することができない河村選手。
歴史的な初得点は、出場6試合目となった11月6日のロサンゼルス・レイカーズ戦で生まれました。
八村塁選手との日本人対決に注目が集まった一戦でしたが、八村選手は体調不良で欠場し、日本人対決はならず。
そんな中試合は序盤からグリズリーズがレイカーズを圧倒。
第4クオーター残り4分35秒には、レイカーズが白旗をあげ、ブロニー・ジェームズが出場。
そして残り1分56秒、タイムアウト明けに大歓声の中、河村選手がフロアに立ち、ブロニーとマッチアップします。
ブロニーをかわして放ったフェイダウェイシュートはおしくも外れたものの、残り33.9秒にブロニーのファウルを誘い、フリースローを獲得。
落ち着いて2本とも決めきり、NBA初得点を記録します。
ホームアリーナに集まったファンの、あたたかい歓声が印象的でした。
初フィールドゴール成功を記録したのは、2日後の出場7試合目、ワシントン・ウィザーズ戦でした。
第3クオーターまでにウィザーズを圧倒したグリズリーズは、25点リードでむかえた第4クオーター残り4分39秒出場すると、まずはNBA初リバウンドを記録。
残り2分42秒には、この日のNBAトップ10プレーに選ばれたジェイ・ハフへの背面ノールックパスで会場をおおいにわかせます。
待望の瞬間がおとずれたのは第4クオーター残り1分55秒。
トップの位置でステップバックの3ポイントシュートを放ち、見事に沈めました。
両手をつきあげ、総立ちになるアリーナの観客たち。
左手を上下し、観客をあおる河村選手。
そしてシュートが決まった瞬間コート上で、全身で喜びをあらわしたジェイ・ハフ(笑)。
アリーナ中が愛にあふれていましたね。
相手のシュートのリバウンドをとった次のターンでも、速攻からのステップバックスリーを狙った河村選手でしたが、これは短すぎてリングをかすめただけでした。
笑顔で頭をかかえるファンの姿が、印象的でした。
11月10日に行われた出場8試合目のポートランド・トレイルブレイザーズ戦は、河村選手のこれまでのベストゲームとなりました。
第3クオーターを終えて106-68と、グリズリーズはブレイザーズを圧倒。
早々にガベージタイムとなり、第4クオーター残り7分57秒、河村勇輝選手が一礼してコートに登場すると、敵地ポートランドであるにもかかわらず、歓声がわきます。
気のせいかと思いましたが、その後も河村選手がボールを手にすると、敵地ポートランドのファンが大歓声をおくるのです。
「いったい、何が起きているんだ?」
と不思議な感覚でした。
河村選手が3ポイントシュートを失敗した時には、「オー!」と残念そうな声が広がります。
速攻でディフェンスがいない状態で、河村選手がチームメイトにパスをして得点をゆずったときには、会場にブーイングがひびきます。
会場中のファンが「自分でシュートにいけよ!」と諭すように。
ここ、敵地ポートランドなんですけど・・・。
アシストで味方の得点をアシストし、大歓声を浴びると河村選手は4分32秒にフリースローを1本沈め、3試合連続となる得点を記録します。
両チームベンチプレイヤーで戦うガベージタイムとは思えない盛り上がりをみせたこの試合。
特に大きな盛り上がりをみせたのが、試合時間残り40秒に河村選手が、トップ・オブ・ザ・キーから放ったフェイダウェイシュートが見事にゴールを射抜いた瞬間でした。
敵地の観客たちが両手を突き上げ、一気に立ち上がったのです。
試合終了直前には「Yuki!Yuki!」と敵地なのに勇輝コールまで響きわたっていました。
まだまだ弱点の多い河村選手ですが、自らのプレーでアメリカのファンの心をつかんだのは間違いないですね。
ガベージタイムに限られてはいますが、12月21日の時点で、NBAで14試合に出場している河村選手。
グリズリーズでは短い出場時間でのアピールに苦しんでいる河村選手ですが、Gリーグのメンフィス・ハッスルでは、エース級の大活躍をみせています。
現地時間12月19日の行われたウィンディシティ・ブルズ戦では、先発ポイントガードとして出場すると、約34分プレーし27得点 5リバウンド 6アシスト 2スティールを記録!
Gリーグでは格の違いをみせつけています。
今後はGリーグで実践をつみ、NBAの舞台でもインパクトを残していってほしいですね!
河村勇輝選手がNBAで生き残るために
河村選手が現在メンフィス・グリズリーズと結んでいる2way契約は「NBAチームに所属しながら下部組織であるGリーグの試合にも出場できる」契約です。
2way契約の特徴は、Gリーグで経験を積みながら、NBAの試合に出ることができること。
ただし2way契約の場合、シーズン82試合のうち、最高50試合しかベンチ入りできないという決まりがあります。
また2way契約の選手は、プレーオフに出場することはできません。
所属チームが「50試合以上ベンチ入りさせたい」「プレーオフに出場させたい」と考えた場合は、本契約する必要があるのです。
渡邊雄太選手も、かつて2way契約から本契約を勝ちとりましたが、河村勇輝選手が目指すのも本契約になりますね。
正直173㎝という身長は、大きなハンディになるとは思いますが、河村選手にはすばらしいプレーメイク能力があります。
チームメイトの力を引き出す能力は、NBAでもトップクラス。
ノールックパスはすでに河村選手の代名詞になり、ファンからも絶大な注目をあつめています。
今後の課題としては、やはりシュート力でしょう。
27得点をあげた12月19日のウェンディシティ・ブルズ戦でも、3ポイントシュートは5本すべて外していますからねえ・・・。
現在のNBAでは、3ポイントシュートが打てないポイントガードは、なかなか使ってもらえません。
いまやセンターでも3ポイントが打てないと厳しいのが現在のNBA。
173㎝という身長では、パスだけでNBAで生き残るのは正直難しいと思います。
河村選手は、Bリーグの横浜ビー・コルセアーズでプレーした2023-24シーズン、リーグ3位となる平均20.9得点を記録していますが、3ポイントシュート成功率は31.8%と、かなりの低確率でした。
Bリーグよりも3ポイントラインが約50㎝遠く、ディフェンスの厳しさも比べ物にならないNBAの世界では、多くを望むのは難しいかもしれません。
それでも「負けず嫌いの努力家」河村選手なら、やってくれると信じています。
まとめ
今回はNBAで奮闘をつづけている河村勇輝選手について語ってきました。
高校生の頃から応援してきた選手が、NBAの世界で闘っている姿を観れるって、すごいことですよね。
日本だけでなく、アメリカでもファンの心をつかんでいるのが素晴らしいと思います。
「We Want Yuki!」のチャントが巻き起こる中、コートインする河村選手を観るたびに、誇らしい気持ちになっちゃいますね。
レイカーズの主力として活躍する八村塁選手と、NBAでの生き残るために奮闘する河村勇輝選手。
2人の日本人選手を、全身全霊で応援していきましょう。