ついこの間、NBAファイナルでヨキッチが無双していたと思ったら、いつのまにか2023-24シーズンに向けてのFA交渉が解禁となりました。
NBAの世界の流れは、とんでもなく早く感じます。
この1か月で、ブラッドリー・ビール(ウィザーズ⇨サンズ)や、クリス・ポール(サンズ⇨ウィザーズ⇨ウォリアーズ)、ジョーダン・プール(ウォリアーズ⇨ウィザーズ)など、ファンが驚くビッグトレードが次々と決まっています。
そんな中、最も驚かされたトレードが、ボストン・セルティックスのハート&ソウル、マーカス・スマートのトレードでした。
ボストンを愛し、髪の毛を緑に染め、全身全霊で戦ってきたチームリーダーの放出は、多くの人の心に衝撃を与えています。
今回は、NBAを35年間観つづけてきた、わたくしリトルもショックを受けたスマートのトレード、そして、NBA史上最も非情だと感じた、アイザイア・トーマスのトレードについて語ります。
それでは、レッツラゴー。
衝撃のトレード マーカス・スマート⇔クリスタプス・ポルジンギス
2023年6月23日、衝撃のトレードがまとまりました。
ボストン・セルティックス、メンフィス・グリズリーズ、ワシントン・ウィザーズの3チームが、三角トレードがまとまったことを発表したのです。
トレードの内容をまとめると・・・
ボストン・セルティックス獲得
・クリスタプス・ポルジンギス
・2023年ドラフト全体25位指名権
・2024年ドラフト1巡目指名権(GSW経由)
メンフィス・グリズリーズ獲得
・マーカス・スマート
ワシントン・ウィザーズ獲得
・タイアス・ジョーンズ
・ダニーロ・ガリナリ
・マイク・マスカラ
・2023年ドラフト全体35位指名権
当初ボストン・セルティックスは、ポルジンギスを獲得するために、ワシントン・ウィザーズと、ロサンゼルス・クリッパーズとの3角トレードを進めていました。
ポルジンギスを獲得するために、セルティックスは、昨年6thマン・オブ・ザ・イヤーに輝いたマルコム・ブログドンと、ケガで1年間出場できなかったダニーロ・ガリナリをクリッパーズに放出すると一度は発表。
しかし、1時間後に、トレードが成立しなかったことを再度発表します。
交渉決裂の原因は、クリッパーズ側が、ブログドンのケガの状態を不安視したためだと言われていますね。
ブログドンは2022-23シーズン、6thマンとして安定した活躍をみせ、セルティックスの勝利に貢献してきましたが、セルティックスの在籍期間はまだ1年。
正直、ケガさえなければオールスター級のポテンシャルを持つ、221㎝のビッグマン、ポルジンギスを獲得できるのであれば、ブログドンの放出はやむを得ないと、ファンも考えていたでしょう。
しかし、この大型トレードが決裂したことで、運命は大きく動きます。
再度、「ポルジンギスがセルティックスへ」というニュースが届き、内容をみて「えっ?」と声をあげてしまいました。
セルティックスが、チームの大黒柱スマートを放出していたからです。
ちなみに、マーカス・スマートの2022-23シーズンと、通算のスタッツ、そして受賞歴をまとめると・・・
マーカス・スマート スタッツ
2022-23 11.5得点 3.1リバウンド 6.3アシスト 1.5スティール
Career 10.6得点 3.5リバウンド 4.6アシスト 1.6スティール
マーカス・スマート 受賞歴
NBA最優秀守備選手賞(2022)
NBAオールディフェンシブファーストチーム×3(2019 20 22)
NBAハッスル賞×3(2019 22 23)
現在のNBAは、スピードがと得点力が高い、スコアリングガード全盛期ですが、スマートには、特筆すべきスピードも得点力もありません。
スタッツだけをみると、並みの選手に感じてしまうかもしれません。
決して〝うまい″選手ではありませんが、NBAでもトップクラスの〝強い″選手なのです。
オールスターには選ばれなくても、その年NBAでたった一人しか受賞できない、最優秀守備選手賞を受賞しています。
オールディフェンシブファーストチームにも3回選ばれており、ディフェンスではNBAでもトップクラスのガードです。
また、NBAハッスル賞を3回受賞しているように、全身全霊のプレーで、チームを引っ張っていました。
セルティックスには、ジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウンと、2人のエースがいますが、チームリーダーは、間違いなくマーカス・スマートでした。
2014年のNBAドラフト1巡目全体6位で指名され、そこから9シーズン、ボストン・セルティックスの勝利のためにすべてを捧げてきたスマート。
メンフィス・グリズリーズへのトレードを知った時の、スマートの気持ちを考えると、たまらなくなります。
221㎝と高さがあり、シュート力もあるクリスタプス・ポルジンギスは、セルティックスとしては是が非でも欲しかった選手だったのでしょう。
しかし、GMのブラッド・スティーブンスの非情な判断には賛成できませんね。
きっと、スティーブンスは正しいのでしょう。
来シーズンの結果をみてみないとわかりませんが、ポルジンギスが活躍して、セルティックスが優勝することも、十分考えられます。
昨シーズン1試合平均23.1得点をあげているポルジンギスが、セルティックスでも同じような活躍をすれば、大きな戦力アップとなるでしょう。
しかし、チームリーダーのスマートを引き換えにすることは、あまりにも非情に感じるのですが、みなさんはどう思いますか?
でも、まあセルティックスですからね。
正直、またか・・・という気持ちです。
それでは、わたくしリトルが35年間NBAを観つづけてきた中で、最も非情だと感じたトレードについて語りましょう。
悲劇のエース アイザイア・トーマス
NBAの長い歴史の中、最も非情なトレードの主役といえば、175㎝の小さなエース、アイザイア・トーマスでしょう。
ボストン・セルティックスの非情さを、思い知らされたトレードでした。
ボストン・セルティックス獲得
カイリー・アービング
クリーブランド・キャバリアーズ獲得
アイザイア・トーマス
ジェイ・クラウダ―
アンテ・ジジッチ
2018年ドラフト1巡目指名権
2020年ドラフト2巡目指名権
NBAを35年間観つづけてきたわたくしリトルが、このトレードを、なぜ〝非情なトレード″に選んだのかを、語ります。
非情① セルティックスの小さく偉大なエースを・・・
アイザイア・トーマスは、2011年のNBAドラフト2巡目全体60位、最後の一人でサクラメント・キングスに指名された175㎝のポイントガードです。
NBAの世界では、圧倒的に不利な身長ながら、スピードと得点力を武器に地位を確立。
フェニックス・サンズを経て、2015年2月にボストン・セルティックスに移籍すると、エースとして大活躍をみせ、オールスターに2年連続出場します。
2016-17シーズン アイザイア・トーマス スタッツ
レギュラーS 28.9得点 2.7リバウンド 5.9アシスト FG46.3% 3P37.9% FT90.9%
プレーオフ 23.3得点 3.1リバウンド 6.7アシスト FG42.5% 3P33.3% FT82.0%
レギュラーシーズンに記録した1試合平均28.9得点は、ラッセル・ウエストブルック(31.6得点)、ジェームズ・ハーデン(29.1得点)に次ぐ、NBA3位。
勝負を決める第4クオーターでは、平均10得点以上を記録し、NBAで1位の勝負強さをみせます。
常に全力でプレーして、決してひるまないトーマスの強気なプレーは、何度も土壇場でチームを勝利に導き、ボストンに熱狂を生みました。
MVP投票でも、ステフィン・カリーを上回る5位の票を獲得。
トーマスの活躍に引っ張られるように、セルティックスは、イースタンカンファレンス1位の53勝29敗。
小さな大エース、アイザイア・トーマスの活躍は、ボストンファンの心をがっちりとつかんでいました。
ボストンの人々にとって、175㎝と自分たちよりも小さなスーパースター、アイザイア・トーマスの存在は、単なるチームのエースを超えた特別なものだったのです。
非情② ケガをおしての全力プレー
トーマスは、2017年3月に、右臀部を負傷。
2016-17シーズン、トーマスはレギュラーシーズン76試合に出場しています。
ほぼ休まなかった理由は、トーマスが何よりもチームの勝利のためにケガをおしてプレーしたことと、チームの判断でした。
右の臀部のケガで、股関節に痛みを抱えたトーマスは、セルティックスのメディカルスタッフに相談していましたが、チームの判断は「GO」でした。
本来であれば、手術と長期間の療養が必要なほど、深刻な状態だったと考えられます。
後に、トーマス自身も、「当初チームのメディカルスタッフは、ただの骨挫傷と診断し、『完治させなくても、プレーオフにはチームのためにも出た方がいい。』とおしてきたんだ。プレーすることによるケガの悪化が、僕自身のキャリアの将来に、どんな影響を与えるかについて、何も教えてくれなかった。」
と語っています。
痛みを抱えながら戦ったプレーオフ。
ファーストラウンドのシカゴ・ブルズ戦では、1試合平均34.8分出場(チーム2位)し、23.0得点を記録。
カンファレンスセミファイナルのワシントン・ウィザーズ戦は、1試合平均36.6分出場(チーム1位)し、27.4得点を記録。
圧倒的な得点力でチームを牽引し、セルティックスのカンファレンスファイナル進出の原動力となりました。
しかし、カンファレンスファイナル、クリーブランド・キャバリアーズとの第2戦で、ついにトーマスの身体は限界を迎えます。
この試合で、前半のみの出場で2得点に終わると、第3戦以降トーマスはプレーすることができず。
チームも1勝4敗で、レブロン・ジェームズ、カイリー・アービング擁するクリーブランド・キャバリアーズに完敗したのです。
痛みをこらえ、セルティックスの勝利のために限界まで戦ったトーマス。
魂のこもったトーマスのプレーに、心震わされた2016-17シーズンが終わりました。
非情③ 最愛の妹の死を乗り越えて
プレーオフファーストラウンドの対シカゴ・ブルズ第1戦が始まる前日、トーマスの妹、チャイナ・トーマスさんが、交通事故で亡くなったというニュースが飛び込んできました。
悲しみにくれるトーマス。
ブルズとの第1戦、試合前の練習、ベンチに座って涙を流すトーマスの肩をそっと抱くエイドリー・ブラッドリーの姿がありました。
トーマスとブラッドリーは、同じワシントン州タコマで育った、子供のころからの友人です。
悲しみのどん底にいるトーマスと、そっと寄り添うブラッドリーをみて、毒舌解説者チャールズ・バークレーは、「僕だったらサイドラインであんな風に泣かれたら集中できなくなる。僕個人の考えとしてはあの眺めはチームのためにはならない。」と語り、炎上していましたね。
ただし、このバークレーの発言は、試合開始前のもの。
バークレーなりに、トーマスの精神状態を心配していたのでしょう。
多くのファンも、トーマスがプレーできるのか心配していましたが、シカゴ・ブルズとの第1戦に予定通り出場します。
この試合で、トーマスは33得点 6リバウンド 6アシストの大活躍をみせました。
シュートを決めるたびに、会場のファンが総立ちで拍手と歓声をおくり、トーマスを後押ししていましたね。
試合には102-106で敗れたものの、エースの決意が現れた試合でした。
ホームでの第2戦目にも敗れたものの、第3戦から4連勝をかざり、ファーストラウンドを制したセルティックスは、ジョン・ウォールとブラッドリー・ビール擁するワシントン・ウィザーズとの戦いに挑みます。
第1戦、トーマスは33得点をあげ、セルティックスが勝利。
そして、迎えた第2戦、この日はトーマスにとって、特別な日でした。
亡くなった妹、チャイナさんの誕生日だったのです。
チャイナさんが23歳をむかえるはずだったこの日、トーマスは歴史的な活躍をみせます。
第1クオーターから、トーマスは15得点と爆発するものの、ウィザーズのエース、ジョン・ウォールは、トーマスを上回る19得点をあげ、29-42とウィザーズが大きくリード。
その後ウィザーズが追い上げ、第3クオーターを終えてウィザーズが5点リード。
そして、第4クオーター、〝ミスターフォースクオーター″と呼ばれていたトーマスが本領を発揮します。
次々とゴール下にアタックすると、自分より30㎝以上大きな選手たちに身体をぶつけながら、レイアップを沈めていきます。
第4クオーターだけで、3本の3ポイントもヒット。
完全に試合を支配したトーマスの姿は、まるで全盛期のマイケル・ジョーダンを観ているようでした。
残り14.4秒、2点ビハインドの場面で、トーマスはフリースロー2本を沈め、オーバータイムに突入。
第4クオーターだけで、トーマスは20得点を記録しました。
オーバータイムでは、トーマスの鬼気迫るプレーの前に、ウィザーズはなすすべなく、129-119でセルティックスが勝利。
オーバータイムでも9得点を記録したトーマスは、この試合53得点を記録。
亡き妹の誕生日を、自らのプレーで、特別な日としたのです。
試合が行われたTDガーデンの盛り上がりも、半端ではなかったですね。
ファンも、悲しみを抱えてプレーするアイザイア・トーマスを心から応援し、そしてトーマスのプレーで感動していたのです。
2017年のプレーオフ、トーマスの活躍には、悲しいドラマがありました。
だからこそ、ファンにとって、アイザイア・トーマスという選手は、特別だったんです。
愛されたエース アイザイア・トーマスの放出
結局、セルティックスは、カンファレンスファイナルで敗れたクリーブランド・キャバリアーズから、司令塔カイリー・アービングを獲得するため、トーマスを放出しました。
ケガをしても、妹を亡くしても、セルティックスのために全力で戦い、ファンの心をがっちりつかんだ小さな巨人、アイザイア・トーマスを、あっさり放出してしまったのです。
スマートの時にも書きましたが、セルティックスの判断は正しかったと思います。
アイザイア・トーマスは、キャブスに移籍後も、股関節の痛みのため欠場が続き、チームを転々と渡り歩くロールプレイヤーとなり、現在は無所属の状態となっています。
もし、2016-17シーズンの活躍で、セルティックスがトーマスと大型契約を結んでいたら、現在のセルティックスの成功はなかったかもしれません。
でもねえ・・・。
カイリー・アービングが、実力を発揮しながらも、セルティックスファンから認められなかったのは、トーマスへの思いが強かったこともあるんでしょうね。
カイリーにも問題は多々ありましたが(笑)。
まとめ
今回は、ボストン・セルティックスが行った、非情な二つのトレードについてまとめました。
何度も言いますが、ボストンのフロントは優秀です。
今回のスマートのトレードについても、チーム力アップにつながるのかもしれません。
ただ、正しさだけでなく、情も大切にしてほしいなあ、という気もします。
1980年代、90年代、NBAはどこのチームにも、顔となる選手がいました。
エースはもちろん、ファンからの人気の高いロールプレイヤーも、たくさんいました。
現在のNBAは、毎年多くの選手がチームを移っており、スーパースターもその例外ではありません。
選手の側からみても、チームへの愛着がうすくなっているように感じます。
自分が優勝するために、最善のチームを選んで移籍を希望するスター選手がふえていますね。
チームも、選手も、もっと情を大切にしてもいいんじゃないかな・・・と思うんですが。
ファンも、自分のチームに、思い入れの強い選手がいると、よりNBAを楽しむこともでき、NBA人気ももっと盛り上がるんじゃないでしょうか?
最後に、マーカス・スマートには、メンフィス・グリズリーズで頑張ってもらいたいと思います。
能力的には文句のない若い選手がそろったグリズリーズ。
ただ、素行の面で問題点を指摘され、勝ちきれない状況にあります。
特に、エースのジャ・モラントは、多くのトラブルを抱えていますね。
チームをまとめるためにも、マーカス・スマートのキャプテンシーは、大きな影響力を与えることができるでしょう。
グリズリーズ入りが決まったデリック・ローズと一緒に、モラントを一人前のフランチャイズプレイヤーに導いてほしいと思います。
2024年のファイナルで、セルティックスとグリズリーズが戦うことになれば、セルティックスファンは、どんな反応をみせるんでしょうか?