2022-23シーズンのNBA、どうなっているんでしょうか?
2023年2月26日、ポートランド・トレイルブレイザーズのエース、デイミアン・リラードが、衝撃の1試合71得点をマーク。
今シーズンは、ドノバン・ミッチェル(クリーブランド・キャバリアーズ)も1月3日に1試合71得点を記録しています。
1シーズン2回の70得点ゲームは、史上初めての出来事です。
ニュース速報を見た時は、「おい、ディフェンスがんばれよ。」と思いましたが、試合を観ると、もうどうしようもないですね。
完全にゾーンに入っていました。
普段は、第4クオーターの1点を争う場面で、圧倒的な勝負強さを発揮し、〝デイムタイム″を発動するデイミアン・リラードですが、この試合は1試合を通じて〝デイムタイム″でしたね。
リラードの勝負強さは、35年間NBAを観つづけてきたわたくしリトルにとって、とても思い入れのある選手と通じるところがあります。
インディアナ・ペイサーズのエース、レジー・ミラーです。
ミラーもまた、勝負どころで信じられないプレーを連発し、〝ミラー・タイム″でNBAを席巻していました。
今回は、「対決シリーズ」第5弾として、【デイミアン・リラードvsレジー・ミラー】を語っていきたいと思います。
結論 リラードvsミラー 勝者はリラード(個人的にはミラー推し)
まず始めに結論をのべると、勝者デイミアン・リラードとしました。
ただ、個人的にはミラーを推したい。
ミラーへの思い入れが強すぎるんです。
リラードはポイントガード、ミラーはシューティングガードと、ポジションの違いはあるものの、2人には共通する点が多くあります。
まずは、勝負所での圧倒的な支配力。
現在のNBAで第4クオーター、相手チームに最も恐れられているのはデイミアン・リラードでしょう。
勝負所の〝デイムタイム″は、数々のハイライトを彩ってきました。
同じように、1990年代~2000年代前半、第4クオーター相手チームとファン(ニューヨーク・ニックス・・・)を、奈落の底につき落としていたのが、レジー・ミラーの〝ミラー・タイム″です。
特にプレーオフでは1ランク、ギアを上げていたミラー。
時には第4クオーターだけで25得点をあげ勝利。
時には試合残り時間16.4秒で6点負けている状態から一人で8得点をあげ、大逆転勝ちするなど、さまざまなドラマをつくってきました。
2人のクラッチシューターとしての活躍は、特筆すべきものです。
もうひとつ、2人の共通点として、フランチャイズプレイヤーとしての責任感があげられます。
デイミアン・リラードは2012年のドラフト1巡目全体6位でポートランド・トレイルブレイザーズに指名され、2023年3月時点で11シーズン目。
〝優勝の価値″が高くなり、スーパースターの移籍も当たり前になった現在のNBAでは珍しく、ポートランド一筋を公言しています。
有力チームに移籍し、ほかのスタープレイヤーと共闘し優勝するのではなく、「ポートランドで優勝する」ことを第一に考えているリラード。
同じように、レジー・ミラーも、インディアナ・ペイサーズを強くすることに、すべてを注ぎました。
1987年NBAドラフト1巡目全体11位でペイサーズに指名されると、2005年の引退までの18シーズンを、インディアナ・ペイサーズ一筋で過ごしたミラー。
ペイサーズのフランチャイズプレイヤーとして、チームを牽引します。
クライド・ドレクスラーがキャリア晩年の1994-95シーズン途中に、前年チャンピオンのヒューストン・ロケッツに移籍しチャンピオンリングを獲得すると、ベテランスター選手が強豪チームに移籍する流れが加速しますが、ミラーは見向きもせず。
ペイサーズが再建期に入った時も、晩年パレスの騒乱(ピストンズ対ペイサーズの試合で観客を巻き込む大乱闘)が起きた時も、ミラーには移籍の話がありましたが、「自分はペイサーズで優勝する」と、頑なにペイサーズ愛を貫き、2005年にペイサーズのリーダーのまま引退。
引退後、セルティックスで現役復帰のオファーがあった時も、「ペイサーズで優勝したかったから」との理由で丁重に断っています。
〝優勝″を追い求める選手人生も素晴らしいですが、〝チーム愛″を第一に考えるリラードやミラーの選択も、また素晴らしいと思います。
それでは、なぜわたくしリトルが、デイミアン・リラードを勝者としたのか、解説していきます。
リラードvsミラー 生涯成績(レギュラー・シーズン)
まずは生涯成績を比べます。
デイミアン・リラードの成績は、2023年3月1日時点のものです。
デイミアン・リラード 759試合出場
25.1得点 4.2リバウンド 6.7アシスト
FG 43.9% 3P 37.3% FT 89.5%
とにかく圧倒的な得点力が光ります。
ポイントガードでありながら、自らの得点を第一に考えるスタイルは、批判もされてきましたが、結果で周囲をだまらせてきました。
6.7アシストと、味方へのパスもしっかり供給しています。
コートのどこからでもゴールを射抜けるシュート力だけでなく、ドライブからの豪快なダンクや、フローターなど、さまざまな個人技を駆使して得点を重ねるリラードは、自らのプレーでチームを引っ張るタイプのリーダーですね。
次に、レジー・ミラーの生涯成績をみていきましょう。
レジー・ミラー 1389試合出場
18.2得点 3.0リバウンド 3.0アシスト
FG 47.1% 3P 39.5% FT 88.8%
まず、出場試合数に驚きます。
歴代13位の1389試合。
18シーズンの長期にわたる選手生活で、平均得点が18.2点はすごいの一言です。
ミラーには、特別な身体能力やテクニックがあるわけではありません。
試合中常に味方がパスを出してくれることを信じ、味方のスクリーンの間を動き回り、ノーマークでパスをもらった瞬間、シュートを打つ。
私たち日本人でも行えるプレーです。
この単純なプレーを、とんでもない精度とスタミナで、1試合とおしてやりきるのが、レジー・ミラーです。
しかも、一番きつい第4クオーターの勝負どころでは、さらにギアを上げ、〝ミラー・タイム″を発動し、チームを勝利に導いてきました。
201㎝ 88㎏の細い身体のどこにそんなパワーを秘めていたのでしょうか?
引退試合となった2005年のプレーオフ、カンファレンスセミファイナル第6戦のピストンズ戦では、27得点している鉄人です。
ちなみに、リラードは昨シーズンまで10シーズンNBAでプレーしていますので、二人の成績をデビューから10シーズンで比べると・・・
デイミアン・リラード 711試合出場
24.6得点 6.6アシスト 4.2リバウンド
FG 43.7% 3P 37.3% FT 89.3%
レジー・ミラー 801試合
19.7得点 2.8リバウンド 3.2アシスト
FG 48.5% 3P 40.1% FT 87.7%
やはり、単純にレギュラーシーズンの成績を比べると、リラードが有利ですね。
シュート効率ではレジー・ミラーに分がありますが、単純な成績比較では、リラードの勝利としましょう。
リラード対ミラー チームに与えた影響力
個人成績は、リラードがとんでもない化け物でした。
今度はチームに与えた影響力をみていきます。
デイミアン・リラードの影響力
リラードは現在ポートランド・トレイルブレイザーズの不動のエースです。
ケガで昨シーズンは29試合の出場にとどまり、選手としてピークをすぎたのでは・・・と懐疑的な見方をする専門家やファンも多かったのですが(私もその一人でした)、今シーズンは3月3日時点で、1試合平均32.3得点と、お化けスタッツをたたき出しています。
なんといっても、1試合71得点ですから。
ただし、リラード個人では絶好調ながら、チームはなかなか波に乗れていません。
3月3日時点で29勝33敗、ウエスタンカンファレンス12位。
今年のウエストは団子状態で、8位のミネソタ・ティンバーウルブズまでまだ2ゲーム差。
まだまだわからない状況ですが、シーズン当初リーグトップに立っていた状態を考えると、今のブレイザーズがうまくいっていないのは確かでしょう。
しかし、シーズン前に行われる専門家の順位予想で常に下位に予想されながら、きっちりプレーオフに進んできたのが、リラード擁するブレイザーズ。
リラード個人も、ブレイザーズも、常に実力よりも過小評価されてきました。
この「過小評価」を覆すために全力で戦うのが、リラードのスタイル。
リラードがチームを牽引し、スターの揃うウエスタンカンファレンスで、プレーオフ常連チームとなったのです。
ポートランド・トレイルブレイザーズ
2011-12 28勝38敗 プレーオフ不出場
⇨ (リラード加入)
2012-13 33勝49敗 プレーオフ不出場
2013-14 54勝28敗 カンファレンス準決勝敗退
2014-15 51勝31敗 1回戦敗退
2015-16 44勝38敗 カンファレンス準決勝敗退
2016-17 41勝41敗 1回戦敗退
2017-18 49勝33敗 1回戦敗退
2018-19 53勝29敗 カンファレンス決勝敗退
2019-20 35勝39敗 1回戦敗退
2020-21 42勝30敗 1回戦敗退
2021-22 27勝55敗 プレーオフ不出場
リラード加入後2シーズン目から、決して前評判の高くないチームを、エースとしてプレーオフに導いてきたことがわかります。
昨シーズンは、リラードの長期欠場もあり、プレーオフを逃してしまいましたが、リラードの影響力を再認識させられたシーズンでした。
ただし、「リラードでは優勝できない」と言われていることも事実。
毎年のようにチームをプレーオフに導くものの、まだファイナル進出はありません。
リラードの問題だけではないと思うのですが・・・。
レジー・ミラーの影響力
ミラーも、リラードと同じように、インディアナ・ペイサーズの不動のエースとして、チームを牽引してきました。
18年間の現役生活の中で、欠場した試合は55試合のみ。
そのうち、現役最終年の2004-05シーズン、39歳の時に16試合を欠場していることを考えると、ミラーの鉄人ぶりを理解していただけるのではないでしょうか?
ミラー擁するペイサーズもまた、「過小評価」されてきたチームです。
実際、インディアナという地域は、大学バスケは盛んな土地ながら、田舎町であり、NBAスターが好んで加入するチームではありませんでした。
スター選手には見向きもされない中、地味でも有能なロールプレイヤーをミラーがまとめ、強豪チームに挑んでいきます。
インディアナ・ペイサーズ
1986-87 41勝41敗 1回戦敗退
⇨ (ミラー加入)
1987-88 38勝44敗 プレーオフ不出場
1988-89 28勝54敗 プレーオフ不出場
1989-90 42勝40敗 1回戦敗退
1990-91 41勝41敗 1回戦敗退
1991-92 40勝42敗 1回戦敗退
1992-93 41勝41敗 1回戦敗退
1993-94 47勝35敗 カンファレンス決勝敗退
1994-95 52勝30敗 カンファレンス決勝敗退
1995-96 52勝30敗 1回戦敗退
1996-97 39勝43敗 プレーオフ不出場
リラードに合わせて、ミラー擁するペイサーズも、まずは10シーズンの成績をまとめました。
ほぼブレイザーズと同じようなチーム状況です。
ミラーが加入する以前は、NBAでも1、2を争うお荷物チームだったペイサーズ。
ミラー加入前の10シーズンで、プレーオフ出場はわずか2回、どちらも1回戦敗退しています。
そんな弱小チームを、常にプレーオフ争いできるチームに変えたのが、ミラーだったのです。
それでは、残りの8シーズンの成績もみていきましょう。
インディアナ・ペイサーズ
1997-98 58勝24敗 カンファレンス決勝敗退
1998-99 33勝17敗 カンファレンス決勝敗退
1999-00 56勝26敗 NBAファイナル敗退
2000-01 41勝41敗 1回戦敗退
2001-02 42勝40敗 1回戦敗退
2002-03 48勝34敗 1回戦敗退
2003-04 61勝21敗 カンファレンス決勝敗退
2004-05 44勝38敗 カンファレンス準決勝敗退
ペイサーズは、素晴らしいチームを作り上げました。
ヘッドコーチに、NBAのレジェンド、ラリー・バードが就任した1997-98シーズンからの3年間は、明らかにほかのチームに比べ地味なロスターながら、優勝候補として、ファンの期待に応える快進撃をみせます。
1999-00シーズンには、ついにファイナル進出。
コービー&シャック擁する、スター軍団のレイカーズに2勝4敗で敗れるものの、ミラーを中心に一致団結したペイサーズは、勝利を渇望する、熱いチームでした。
しかし、NBAファイナルで敗退後、ラリー・バードが去り、チームは迷走。
ディフェンスの要デイル・デイビスが移籍し、不動のセンターだったリック・スミッツは引退。
時期エースとみられていたジェイレン・ローズも移籍し、ファイナル進出したチームは、2年でほぼ解体となってしまうのです。
当然、再建期となったチームで、ベテランエースのミラーには、トレードの噂も数多く出ました。
キャリアの最後に「強豪チームに移籍して、チャンピオンリングを獲得したい!」と思う選手がほとんどだと思いますが、ミラーはかたくなに「ペイサーズで優勝する」ことにこだわり続けたのです。
ミラーを優勝させたいと一致団結したペイサーズは、2003-04シーズン、61勝を記録し、再び優勝候補と呼ばれるようになります。
しかし、2004-05シーズンがはじまったばかりの2004年11月19日、デトロイト・ピストンズの本拠地、「パレス・オブ・オーバーンヒルズ」で行われたペイサーズ対ピストンズの試合で、観客を巻き込んだ世紀の大乱闘が起きてしまいました。
「パレスの騒乱」と呼ばれる大乱闘によって、ペイサーズの主力若手4人が長期出場停止となり、優勝候補だったペイサーズは、奈落の底に突き落とされます。
キャリアの最後をむかえていたミラーに、ペイサーズのフロントは、トレードを打診しますが、ミラーはここでも、「ペイサーズで優勝するんだ。」と、信念を曲げませんでした。
結果的に、この年で引退するミラーのために一致団結したペイサーズは、カンファレンスセミファイナルまで進み、因縁のピストンズに敗れるまで、戦いぬきました。
最終戦となった、カンファレンスセミファイナル第6戦、ミラーが27得点をあげながらも、ピストンズが7点をリードし、勝負が決した残り15.7秒。
ピストンズのラリー・ブラウンヘッドコーチがタイムアウトを取ると、ピストンズの選手が次々とミラーをハグ。
ミラーがペイサーズのベンチに向かうと、アリーナ中の観客すべてがスタンディングオベーションで拍手を送り、中には涙しているファンの姿も。
チームメイトとハグしている間、敵であるピストンズの選手たちも、全員ベンチに座ることなく、拍手を送り続けていました。
わたくしリトルが35年間NBAを観つづけてきた中で、一番号泣した場面かもしれません。
どうしたらいいのかわからないような、すべてを出し切ったような、プレーオフでの敗退が悔しいような、呆然とした
ミラーの表情が忘れられません。
「チームに与えた影響力」については、レジー・ミラーの勝利とします。
もちろん、リラードには、選手人生の後半、まだまだいろんなドラマを紡いでいく機会が残されています。
優勝するかもしれませんし、夢はかなわないかもしれません。
しかし、ミラーのように、敵からも味方からも祝福を受けてコートから去れるような、尊敬される選手となれば、わたくしリトルの中でも、「リラードがミラーを超えた」と思える日が来るかもしれませんね。
リラード対ミラー 受賞・タイトル
リラードもミラーも、実力のわりに過小評価されてきた選手といえるでしょう。
それでも、2人のスーパースターは、多くのタイトルを勝ちとってきています。
デイミアン・リラード 受賞歴
オールNBAファーストチーム(2018)
オールNBAセカンドチーム ×4回(2016、2019-21)
オールNBAサードチーム(2014)
NBA新人王(2013)
NBAオールスター ×7回(2014、15、18-21、23)
NBAスリーポイントコンテスト優勝(2023)
NBA75周年記念チーム
満票での新人王獲得にはじまり、オールNBA入り6回、オールスター7回出場など、多くの栄誉を獲得しています。
それでも、リラードの実力にしては、まだ少ないと感じてしまいますね(少なくともオールスターもう1回は間違いなかった)。
NBA75周年記念チーム(歴代の名選手75人を選出。実際は投票で2名が同票となったため76人)にも、しっかり選出されています。
レジー・ミラー 受賞歴
NBAサードチーム ×3回(1995、96、98)
NBAオールスター ×5回(1990、95、96、98、00)
NBA75周年記念チーム
インディアナ・ペイサーズ永久欠番 31番
こうしてまとめると、あまりにもその功績に対して、与えられた栄誉が少ないように思います。
でもいいんです。
ペイサーズの魂であるミラーは、そんなこと気にしていませんから。
他のチームのファンに対しては、ヒールとして恐れられていたミラー。
ニックス戦では、コートサイドのスパイク・リーを、首絞めポーズで挑発。
ブルズ戦では、勝利を決定づけるシュートを決めたあと、ステイプルズセンターのファンを挑発するように深々と〝おじぎ″し挑発(最後クーコッチのまさかのブザービーターで敗れますが)。
数々の名場面をつくってきたミラーは、記録よりも、強烈に記憶に残る選手でした。
しっかり75周年記念チームに選ばれただけで、わたくしリトルは満足です。
まあでも、「受賞・タイトル」の項目は、リラードの勝利ですよね。
まとめ
どうにかして、「レジー・ミラー勝利!」としたい自分もいましたが、冷静に見て、やはりリラードの活躍はすばらしいものです。
今回の勝負は、デイミアン・リラードの勝利とします。
あとは、なんとかポートランド・トレイルブレイザーズをファイナルに引っ張っていって欲しいですね。
レジ―・ミラーに関しては、今回記事を執筆している中で、また熱い思いがこみ上げてきました。
ぜひまた、記事に取り上げたいと思います。